2004年の放送開始以来、日本の女児向けアニメの金字塔として君臨し続けているのが「プリキュアシリーズ」です。

「女の子だって暴れたい」というキャッチコピーと共に誕生した初代から、現在に至るまで毎年新しいキャラクターと世界観へとバトンタッチを繰り返してきました。

このシリーズが20年以上もの長きにわたって愛され続けている理由の一つに、時代背景や視聴者層の興味を的確に捉えた「絶妙なモチーフ選び」が挙げられます。

この記事では、初代から最新作に至るまでの歴代プリキュア全作品について、どのようなモチーフが採用され、そこにはどのような隠されたテーマや願いが込められているのかを時代ごとに分かりやすく一覧で徹底解説します。

初代から5(ファイブ)までの初期シリーズのモチーフ

プリキュアシリーズの基礎が作られた初期の作品群では、従来の魔法少女アニメの常識を覆すような、力強く挑戦的なテーマが選ばれていました。

ふたりはプリキュアに込められた「陰陽」と「アクション」

記念すべき第1作目である『ふたりはプリキュア』(2004年)には、特定のアイテムや動物といった分かりやすい外見上のモチーフは実は存在しません。しかし、主人公であるキュアブラックとキュアホワイトのデザインと関係性には、「光と闇」あるいは「陰と陽」という根源的なテーマが込められています。全く性格の異なる二人が反発し合いながらも、手を繋ぐことで初めて変身し強大な力を発揮するという設定は、女児向けアニメとしては異例とも言える重厚なバディものとしての側面を持っていました。

また、当時の魔法少女アニメのお約束であった「魔法のステッキで敵を倒す」というスタイルを完全に排除し、徒手空拳の「肉弾戦アクション」を最大の武器(モチーフ)としたことは、当時の視聴者やアニメ業界に特大の衝撃を与えました。黒と白という対極のカラーリングにフリルをあしらった衣装は、「可愛らしさと力強さは両立する」という新しいヒロイン像を世に提示し、現在にまで続くプリキュアの基本理念を確立しました。

プリキュア5が取り入れた「蝶」と「戦隊ヒーロー」の要素

ふたり体制から一新し、初めて5人組のチーム制を採用した『Yes!プリキュア5』(2007年)のメインモチーフは「蝶(チョウ)」です。主人公たちの変身アイテムやコスチュームの背中、さらには必殺技のエフェクトに至るまで、美しい蝶の意匠がふんだんに散りばめられています。この蝶には「さなぎから羽化して美しく飛び立つ」という、思春期の少女たちの成長と夢への羽ばたきを象徴する意味が込められていました。

また、本作のもう一つの裏テーマ(モチーフ)と言えるのが「スーパー戦隊シリーズ」です。ピンク、赤、黄、緑、青という明確なイメージカラーの割り当てや、それぞれが異なる得意分野を持ってチームで困難に立ち向かうという構図は、男児向けの戦隊ヒーローのフォーマットを女児向けに見事にアレンジしたものでした。「女の子だってチームで地球を守っていい」というメッセージは多くの共感を呼び、プリキュアというブランドを長期シリーズ化させる決定的な原動力となりました。

フレッシュからスマイルまでの転換期シリーズのモチーフ

シリーズが軌道に乗り始めた中盤の作品群では、より視聴者である子どもたちの日常生活や好みに密着した、親しみやすいモチーフが次々と採用されていきます。

フレッシュプリキュアの「フルーツ」と「クローバー」の意匠

キャラクターデザインや頭身を大きく変更し、シリーズの転換点となった『フレッシュプリキュア!』(2009年)のモチーフは、「フルーツ」と四つ葉の「クローバー」です。主人公たちはそれぞれピーチ(桃)、ベリー(青の果実)、パイン(パイナップル)、パッション(パッションフルーツ)というフルーツの名前を冠しており、衣装にもそれぞれのフルーツのカラーとみずみずしさが表現されています。女の子が大好きなフルーツを前面に押し出すことで、親しみやすさを大きく向上させました。

また、変身アイテムや物語のキーアイテムとして登場する「四つ葉のクローバー」には、それぞれ「愛」「希望」「祈り」「幸運」という明確な意味が与えられています。ダンスユニットを組んでいる主人公たちが、挫折を繰り返しながらも四つ葉のクローバーのように揃って幸せを掴み取ろうとする姿は、非常にポジティブで明るいテーマとして視聴者の心に響きました。敵対していたキャラクターが仲間になる(追加戦士)という劇的な展開も、本作がシリーズにおける一つの完成形を作ったと言えます。

ハートキャッチの「花」とスマイルの「絵本・おとぎ話」

続く『ハートキャッチプリキュア!』(2010年)は、その名の通り「花(植物)」がメインのモチーフです。変身する主人公たちはキュアブロッサム(桜)、キュアマリン(海辺の花)、キュアサンシャイン(ひまわり)、キュアムーンライト(月下美人)と、それぞれを象徴する花を持っており、作中では「花言葉」が物語の重要な鍵を握ります。人々の心の悩み(こころの花)を解決していくというストーリーは、内向的な主人公の成長を丁寧に描き、歴代最高傑作と評する声も多い名作です。

そして、東日本大震災の翌年に放送された『スマイルプリキュア!』(2012年)のモチーフは「絵本(童話)」と「笑顔」です。ピーターパンやシンデレラといった世界中の童話の世界をベースにしながらも、何があっても「ウルトラハッピー!」と前を向く主人公たちの底抜けの明るさが描かれました。「どんな困難があっても、みんなで笑い合えば未来は切り開ける」というストレートなテーマは、当時の日本中を包んでいた不安な空気を吹き飛ばすほどの強いエネルギーと優しさに満ちていました。

ドキドキから魔法つかいまでの多様化シリーズのモチーフ

時代の変化に伴い、この時期の作品群ではより多彩でスケールの大きなモチーフが取り入れられ、プリキュアの世界観が一気に広がりを見せます。

ドキドキ!の「トランプ」とハピネスチャージの「世界と星座」

『ドキドキ!プリキュア』(2013年)のメインモチーフは「トランプ」のスート(マーク)です。ハート、スペード、クローバー、ダイヤの4つのマークがそれぞれのキャラクターのデザインや性格に深く結びついており、リーダーであるキュアハートの「愛」を中心に、知性や勇気を象徴するメンバーが固めるという王道の布陣が敷かれました。トランプという普遍的なゲームの要素を用いることで、仲間との連帯感や組み合わせの面白さを視覚的にも分かりやすく表現しています。

翌年の『ハピネスチャージプリキュア!』(2014年)は、シリーズ10周年記念作ということもあり、「世界」と「鏡(オシャレ)」がテーマとなっています。世界中に独自のプリキュアが存在しているという壮大な設定が導入され、主人公たちは変身カードを使ってフラメンコやマカダミアンダンスなど各国の衣装に「フォームチェンジ」して戦います。また、キュアフォーチュンなどのキャラクターには「星座」のモチーフも組み込まれており、占いやオシャレに興味を持ち始める年頃の女の子の心をしっかりとキャッチしました。

プリンセスの「夢と鍵」から魔法つかいの「魔法と宝石」へ

『Go!プリンセスプリキュア』(2015年)は、女の子の永遠の憧れである「プリンセス(お姫様)」を真っ向からモチーフに据えました。しかし、ただ王子様に守られるだけのお姫様ではなく、「自分の力で夢を切り開く、強くて美しいプリンセス」として描かれています。キーアイテムである「ドレスアップキー(鍵)」と「香水」は、自分自身の無限の可能性の扉を開く象徴として機能しており、目標に向かってひたむきに努力する主人公の姿は多くの視聴者に勇気を与えました。

続く『魔法つかいプリキュア!』(2016年)は、タイトル通り「魔法使い」と「宝石」がメインモチーフです。人間界と魔法界という全く異なる世界で育った二人の少女が、手をつないで魔法の言葉を唱えることで奇跡を起こします。ルビー、サファイア、トパーズといった宝石の力を借りて様々なスタイルに変身する様子は非常に華やかでした。「魔法とは、相手を思いやる気持ちが生み出す奇跡である」という温かいメッセージは、日常の中にある小さな幸せの大切さを優しく説いていました。

プリアラからヒーリングっどまでの現代的シリーズのモチーフ

近年に入ると、子どもたちの将来の夢や、社会的な出来事を色濃く反映した、より現代的で共感性の高いモチーフが選ばれるようになります。

キラキラ☆プリキュアアラモードの「スイーツとアニマル」

『キラキラ☆プリキュアアラモード』(2017年)は、「スイーツ(お菓子作り)」と「アニマル(動物)」という、女の子が大好きな2つの要素を見事に掛け合わせた作品です。キュアホイップ(ショートケーキ×うさぎ)やキュアカスタード(プリン×リス)など、それぞれの好きなスイーツと性格を表す動物がデザインに落とし込まれています。「想いを込めてスイーツを作る」という行為を通じて、クリエイティブな喜びと誰かを笑顔にする尊さを表現しました。

また、本作は初期シリーズ以来の伝統であった「肉弾戦(直接打撃)」を封印し、クリームを絞って敵を拘束したり、マカロンを投げて戦うといった「スイーツを活用したポップな戦闘スタイル」を採用したことでも大きな話題を呼びました。時代に合わせて暴力的な描写を和らげつつも、プリキュアらしい躍動感のあるアクションを新しい形で提示することに成功したエポックメイキングな作品です。

HUGっと!の「お仕事・育児」とヒープリの「地球のお医者さん」

シリーズ15周年の『HUGっと!プリキュア』(2018年)は、「お仕事」と「育児」という、これまでの女児向けアニメの常識を覆すリアルなモチーフを採用しました。主人公たちが空から降ってきた赤ちゃん(はぐたん)を育てながら、客室乗務員やナースなどの様々なお仕事を体験していくというストーリーです。「なんでもできる!なんでもなれる!」というキャッチコピーのもと、未来への希望と、働くこと(誰かを応援すること)の尊さを全力で肯定し、大人世代からも涙するほどの絶大な支持を集めました。

続く『ヒーリングっど♥プリキュア』(2020年)のモチーフは「地球のお医者さん(医療)」と「自然」です。地球を蝕む病原菌(ビョーゲンズ)に対して、主人公たちが自然の精霊であるヒーリングアニマルと共に「お手当て(治療)」を行うというストーリーです。偶然にも現実世界でパンデミックが発生した時期の放送となりましたが、「生きるって素晴らしい」という命への賛歌と、病と戦う全ての人への優しさに溢れたテーマは、奇しくも時代の空気に最も寄り添う形となりました。

トロピカル〜ジュから最新作に至る革新的なシリーズのモチーフ

最新の作品群では、これまでのプリキュアの概念すらも打ち破るような、非常に個性的で革新的なモチーフが次々と採用され、常に進化を続けています。

トロピカル〜ジュの「海とコスメ」が生み出した底抜けの明るさ

『トロピカル〜ジュ!プリキュア』(2021年)は、「海(人魚)」と「コスメ(メイク)」がメインのモチーフです。コロナ禍の閉塞感が漂う中で、「今、一番大事なことをやろう!」というスローガンを掲げ、とにかく明るく前向きでコメディ色の強い作風が特徴でした。リップやチークなどのコスメアイテムを使って「自分を奮い立たせるためにメイクアップする」という設定は、メイクを「誰かに見せるため」ではなく「自分の気合いを入れるためのスイッチ」として定義し直した画期的なものです。

また、主要メンバーに「本物の人魚(キュアラメール)」が含まれている点も大きな特徴です。海という広大なモチーフのもと、人間と人魚という異種族間の友情や、部活動(トロピカる部)を通じた日常の輝きを描き出し、どんな状況でも楽しむことを忘れない底抜けのポジティブパワーで視聴者を元気づけました。

ひろがるスカイ!の「空とヒーロー」が打ち破った従来の常識

シリーズ20周年記念作となった『ひろがるスカイ!プリキュア』(2023年)のモチーフは、「空」と「ヒーロー」です。初代の「女の子だって暴れたい」から一歩進み、「女の子だってカッコいいヒーローになれる」という原点回帰かつ究極のテーマに挑みました。主人公のキュアスカイは、プリンセスではなくヒーローに憧れる真っ直ぐな少女であり、青空を象徴するブルーをシリーズで初めて「主人公(センター)のイメージカラー」として採用しました。

ひろがるスカイ!が破ったプリキュアの常識
  • 主人公のイメージカラーに「ピンク」ではなく「ブルー」を採用
  • シリーズ史上初となる「男子プリキュア(キュアウィング)」のレギュラー化
  • 新成人(18歳)の「大人プリキュア(キュアバタフライ)」の誕生

さらに本作は、レギュラーメンバーに「12歳の男の子」や「18歳の成人女性」のプリキュアを含めるという、過去の歴史を塗り替える特大のサプライズを用意しました。「ヒーローになりたいという純粋な心があれば、性別も年齢も関係なく誰でもプリキュアになれる」という多様性(ダイバーシティ)の時代のメッセージを、空という果てしなく広がるモチーフにのせて見事に描き切りました。

歴代プリキュアのモチーフとテーマの変遷まとめ

初代から最新作に至るまで、歴代プリキュアシリーズのモチーフとそこに込められたテーマの変遷を一覧で解説してきました。

初期の「光と闇(アクション)」から始まり、中盤の「花」や「トランプ」、そして近年の「育児」や「コスメ」「多様なヒーロー像」に至るまで、プリキュアのモチーフは常に「その時代の女の子たちが今一番興味を持っているもの」と「社会が子どもたちにどう育ってほしいかという願い」の掛け合わせで選ばれてきました。

ただ可愛い衣装を着て敵を倒すだけでなく、お仕事の尊さや命の大切さ、そして性別や年齢にとらわれない自由な生き方まで、アニメの枠を超えて真摯にメッセージを発信し続けていることこそが、プリキュアが20年を超えて親世代からも絶大な信頼と人気を集めている最大の理由と言えるでしょう。